ネタバレするよ。
全米公開から遅れること約一ヶ月。待ちに待ったマーベル・シネマティック・ユニバース(以下MCU)最新作にして、スパイダーマン三部作完結編。
MCUは全ての作品が同じ世界観を共有し、作品同士のクロスオーバーが前提という、視聴するのに非常にハードルの高いシリーズなのですが、今作はさらに「他シリーズのスパイダーマン映画」の復習が必須となっています。
トビー・マグワイア主演の『スパイダーマン』シリーズ(2002〜2005)*1
アンドリュー・ガーフィールド主演の『アメイジング・スパイダーマン』シリーズ(2012〜2014)*2
どちらもシリーズごとに世界観があり、独自で展開していたのですが、様々な要因が重なりきちんと完結することなく頓挫。
2015年にソニーとマーベルがパートナーシップ締結が発表され、これによりMCUにスパイダーマンをソニーが貸し出すという形で参入が決定。
過去のシリーズとは違うまた新しいシリーズをMCUで描くこととなり、そこで誕生したのがトム・ホランド主演の本シリーズです。
となると上記2つのシリーズの復習は必要ないはずなのですが、発表された予告映像にとんでもないものが。
『スパイダーマン』シリーズ、『アメイジング・スパイダーマン』シリーズそれぞれから、本来登場するはずのない別の世界のヴィランが登場すると。しかもオリジナルキャストが集結すると。
一切交わることが無かったどころか、なんなら過去2シリーズは黒歴史扱いだと思っていたので界隈は大騒ぎでした。
現在MCUは新章に突入しマルチバースの存在を示唆している最中ではありますが、まさか、まさかそこに触れてくるとは。
ここで話題になるのはもちろん、「それぞれの世界のスパイダーマン、トビーとアンドリューは出演するのか?」なんですが、ここに関しては主演のトム・ホランドが終始否定していました。(トビーもアンドリューも否定してた)
ネタバレ王子と名高い彼が、頑なに口を閉ざしている・・・
これだけあちこちで聞かれたら、思わず「先日スタジオでトビーと・・・・あっ」みたいなことが普通にあり得る、あのトムホが・・・
それが意味するのは「本当に出ない」なのか、「出るけど、言えばマジでめちゃくちゃに怒られる」なのか。
それを確かめるには劇場へ足を運ぶしかありません。ただでさえ日本の劇場公開は約一か月遅れ。SNSのネタバレなんか踏もうもんなら正気ではいられません。
あらゆる関連ワードを片っ端からミュートに放り込み、日本で公開が始まるともはやタイムラインは薄目で見る始末。
公開直後の日曜日、映画館に駆け込みました。入れ替わりの客にロビーでネタバレされないように朝一の回。*3
観ました。
全部出た。
トビー・マグワイアもアンドリュー・ガーフィールドも過去作ヴィランも全部。
しかも最高の形で。だめだ「ありがとう」とため息しか出ない。【想像しろ。超えてやる】はフカシでも何でもなかった。想像という超えようのないハードルを悠々と超えていった。
アクシデントでマルチバースが繋がってしまい、あらゆる世界からスパイダーマンを知るキャラが集結する!との触れ込みだったので、「それなら他のスパイダーマンも出るやろ」とは思ってました。思ってはいたけど、「どうせ出てもスーツだけやろ」とか思ってました。本当にごめんなさい。
誰もが予想したけれど、まさか実現するとは。
しかも「出しただけではない」というのがデカい。各キャラクターがきっちり役目をこなし、本筋に絡み、未完だった各々の物語を救済していく。
トビーは、自我を取り戻したオクタビアスと出会ったころを彷彿とさせるウィットに富んだ会話をみせ、フリントを説得し、ノーマン・オズボーンをグライダーから救った。
アンドリューは、救うことの出来なかったマックスを説得し、コナーズ博士を自ら開発した治療薬で癒し、今度は間に合った。*4
ただのレジェンド出演ではなく、それぞれのキャラクターとの「ありえたかもしれない未来」を紡いでいく。
ある意味で、『スパイダーマン』の完結編でもあり『アメイジング・スパイダーマン』の完結編でもありました。
それでいて本筋はしっかりと「MCU世界のピーター・パーカー(トム・ホランド)の物語」であり、大切な人を失った主人公がどう立ち上がるかを描いていました。
今思うと今回のスパイダーマンって、ベンおじさん死亡イベントすっ飛ばしてるんですよね。
代わりにというか、父親のような存在であったトニーを失っているので、喪失イベントとしては既に通っている気になっていたのですが、本来ベンおじさんの死で受けるはずだった『喪失』『後悔』『復讐心』のうち、トニーの死は『喪失』しか味わっていない。
自らの起こした(起きてしまった)事件で、大切な人が殺されてしまう。それをどう受け止め、立ち上がるのか?という、本来であればスパイダーマンになる上で最初に乗り越えるはずだった壁に、完結編でぶつかることになる。
確かにスパイダーマンに必須のエピソードではあるのですが、トニーの死を目の当たりにした彼から唯一の肉親ですら奪うのは酷ではないかという気持ちが無いわけではない(物語のラストを考えると特に)。
と同時に、「大切なものを失っても、それでも立ち上がるヒーロー」がたまらなく好きなので(アメスパ狂信者)心が沸き立ってしまう。
過去2シリーズと比べても、今回の『ピーター・パーカー』は恵まれていて、周りの大人に支えられながら成長していきました。
過去に類を見ない幸せなスパイダーマン。このままアベンジャーズの中心となってアイアンマンの後を継ぐのだろうと思っていましたが、蓋を開けてみれば
唯一の肉親のメイおばさんを失い
住む家を失い
学歴を失い
最愛の人MJを失い
親友のネッドを失い
共にに戦った仲間を失い
スーツもスターク社の技術も失い
文字通り何もかもを失ってしまいました。
手作りのスーツを身に纏い、喪失感と悲嘆にくれる感傷をマスクで隠し、ニューヨークの街をスイングする姿にたまらなく愛おしさを感じてしまう。
せめてもの救いは、別の世界には自分と同じ体験をしたかけがえのない仲間が居ることか。
今作を完結編として捉えるとほぼバッドエンド寄りのビターエンドって感じなんですけど、次シリーズが既に決まっていることを考えると、まだ希望はあると思うんですよね。
MCUって基本「一回ドン底まで落として一気に上げてくる」なんで、わりとすぐに記憶復活したりするかもしれない。
ストレンジの魔術がアスガルドまで影響してるのか?とか、顔バレしてないことになってるけどアベンジャーズには在籍してて普通に始めましてからやり直せるとかあるかも。*5
まぁこのまま数年単独作品で孤独にヒーロー続けてもらって、夢の超トッキュウ7号*6の虹野明視点みたいになるのも観てみたいとは思う。
マルチバースについて
MCUドラマシリーズ『ロキ』でマルチバースが本格化していくことが示され、今回の『ノー・ウェイ・ホーム』が、マルチバースを描く最初の実写映画となりました。
スパイダーマン、マルチバースを描くのにうってつけなんですよね。
実際にアニメ作品では既に『スパイダーバース』が描いていますし、そもそもアメコミは存在がマルチバースみたいなもんなわけで。ただそういった意味ではなく、視聴者が別世界を既に認知しているというのがデカい。
別世界から来たキャラクターが、その別世界でどんな人生を歩み、どう生きてきたか。その人となりや辿ってきた運命を知っているからこそ、立ちはだかるヴィラン達がただの敵ではなく、救済を求める一人の人間に見えてくる。
まるで3作品を同時に観ているような不思議な感覚になりました。
考えれば考えるほどマルチバースの一発目としてはこれ以上ない題材なのですが、実現するのは至難の業だったことでしょう。
ただでさえ権利関係の面倒なスパイダーマン。しかも20年前の映画からオリジナルキャストを集結し、さらにストーリーまで拾って整合させていくのは神業といって差し支えない。本当によくやってくれた。ありがとうございます。
5億点でタコ殴りにされた
小難しい話はいいんです。
5億点で殴られた話がしたい。
上映までひた隠しにされていた「過去作スパイダーマン総出演」。
試写会でも箝口令が敷かれ、トビーとアンドリューの出演はとことん隠されていたと。
本当によく黙っていたトムホ。偉いぞ。やればできるじゃないか。
序盤のドクター・オクトパス登場。「これ予告も観ずに来てたらここでめちゃくちゃアガったんだろうなぁ〜」って思ったんだけど、予告観てないとサム・ライミ版もアメスパも再履せずに来てたのでやっぱり予告観て良かった。
出たは出たが「あんた本当にサム・ライミ版から来たのか???同キャストなだけで全然知らん別の世界から来たんじゃないのか!?!?」ってビビってたけどそんなことはなかった!!!ようこそオクタビアス!!!!
サンクタム・サンクトラムで雪かきしてた2人誰?最初シャン・チーかと思ったけど顔違ったよね?
ドクター・ストレンジ、元医者なのに問診が雑。
とりあえず開腹してから考えるかの精神やめて。
魂抜くやつエンシェント・ワン思い出して泣きそうになるので好き。
ミラー・ディメンション。絵が楽しすぎるんよな。幾何学だから数学のほうが強いはよくわかんないけどそれも含め好き。
ポータルの向こうにアンドリューが映った時、もしかしたらスーツだけかもと思ってたんですよね。東映特撮ではあるあるなので。
それがマスク取ったらアンドリュー・ガーフィールド!!!思わずどよめきが起きる館内。膝を打ち、声の代わりに涙が出る出る。
「トムホちゃうやん。もっかいやってみ?」でもっかいポータルやったら次トビー・マグワイア!!!あああああああ!!!!お互いを試すようにウェブシューターの撃ち合い!!!もぉぉぉぉ!!!!
そこから始まるピーター身の上話。同じ想いをした人にしか共感できないところを、同じピーター・パーカーだから寄り添えるという展開。よき。
そういえば全員理系オタクだったなと思い出す研究室シーン。
3人揃ってヴィランの治療薬作るの胸熱。
「親友いる?」「いたよ。僕の腕の中で死んだ」の気まずい空気最高。
「ピーター!」「「「えっ?」」」「いやピーター・パーカー!」「「「いやみんなピーター・パーカーなんだけど」」」のくっそベタなやつ。
「えっ!?蜘蛛の糸身体から出るの???」「むしろ君ら出ないの???」のくだり。大変だこの映画、観たいやつ全部やる気だ。
ピーター自作品いじり。即観たいやつきた。
全部アドリブなんじゃないかってぐらい3人が楽しそうに話してて、映画観ながら夢なんじゃないかと何回も思った。
トビー・マグワイアがちゃんと年相応のまま来てくれて最高。腰が痛いスパイダーマン最高。
「背中伸ばしてやろうか?」のシーン、絶対に必要ないし無駄な数十秒だけど、あれこそが一番観たいシーン。
オマージュでありながら、17年ぶりにスパイダーマンを演じるトビー・マグワイアのメタでもあるのがオシャ。
「アベンジャーズ入った!」「アベンジャーズって何?」「アベンジャーズないの!?!?」すき。もはや3人喋ってるだけで5億点が出続けている。
ヴィランとの総力戦。スパイダーマンは孤立無縁ゆえコンビネーションができないの○。アベンジャーズでコンビネーションを学んだトムホが作戦練るの◎。
予告の場面、意図して画角狭くしてドクター・オクトパス映らないようにしてるのかと思ったけど、普通にCG処理で消されてるだけだった。嘘予告パターン。
なんとなく予告にあったシーンが無いと悲しくなってしまう(カーズ3日本語版予告の「限界は誰が決めたんだ?」でめちゃくちゃ感動したので)
アンドリューの軽口が一番好き。やぁマックス。あとアンドリュー顔変わらなさ過ぎなーーー!!!
MJを救うアンドリュー!!!そして顔〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!
なんて顔するんだお前〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!
予告のMJ救出がトムホじゃなくてアンドリューだったのはめちゃくちゃ良い予告詐欺でした…
グライダーを止めるトビー・マグワイアーーーー!!!ノーマンを残酷な未来から救うトビー・マグワイアーーーーーーー!!!!(トムホ自身が復讐心を乗り越えてないじゃんと言われたらそれはそう)(トビーもアンドリューも○る時は○ってるし)
言葉にならなくてとりあえずハグするトムホマジかわいいだし俺らも今そんな気持ちだよって感じ。胸いっぱい過ぎて何も出てこんよね。
ドーナツ屋でのトムの顔〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!せつねぇ〜〜〜〜〜〜〜!!!!
喉まで声が出そうになってる顔凄いせつねぇ〜〜〜〜〜〜〜!!!
ミッドクレジット。ヴェノムじゃん!観てな〜い!!!
やってしまった…でもなんとなくは知ってる。ピーター・パーカーを認知して終わったらしい。一緒に呼ばれてたのね。
世界一厄介な置き土産ありがとう。
今作、ヴィランがめちゃくちゃ楽しそうなんですよね。ウキウキで出演してるのが手にとるようにわかる。オクタビアスなんてもはや楽し過ぎてずっと半笑いなんじゃないかってぐらいの演技だった。それが最高に可愛かったんですけども。
サプライズでレジェンド出演、当時のストーリーを回収・保管し、現行ヒーローに自らの経験を踏まえたアドバイス。
それでいてでしゃばり過ぎず、現行ストーリーの補佐に徹し、今のファンも昔のファンも納得させる…
ひらパーのヒーローショーじゃん!これ200億円かけたひらかたパークのヒーローショーだよ!!!
「ネタバレ厳禁!」「ネタバレ禁止!」「観たけど何も言えない〜!とりあえず観て!」みたいなのが多すぎて、「そんなのもうスパイダーマン勢揃いするって言ってるもんじゃん」みたいな状況になってましたね。*9
J・K・シモンズが自力でサム・ライミ版からやってきた問題。あれは変異体扱いらしいけど、別にMCU世界にJ・K・シモンズと同じ顔のジャーナリストがいてもいいと思うので説明不要派。MCU世界にはアルフレッド・モリーナの顔した科学者のオクタビアスがいてもいいし、ウィレム・デフォーの顔したプロテインメーカーかなんかの社長のノーマン・オズボーンもいてもいい派。
それならエマ・ストーンの顔のグェンがいてもいいので、アンドリューと街ですれ違う『バタフライ・エフェクト』みたいなシーンが観たかった。
ソニーとの契約なのかトムホとなのかわからないけど、元々はこの映画でMCUのスパイダーマンは終わりって話だったので、最後のヴェノムの所外せばこれで終わりでもおかしくない作りになってた。なのでよりスパイダーマンのオリジンの物語になって、最後トムホがあんなことに。新三部作決まって良かった。
総括
間違いなく500億点の映画だけど、細かいところが気にならないかというとそうではなくて。
「マルチバースで過去ソニー映画全部救済する!」がまず念頭にあって、それを実現させるために生じるノイズはある程度許容したんじゃないかと。(どうにかノイズを減らそうと努力しまくったのは随所に感じる)
グリーン・ゴブリンに復讐するシーンは、本来メイおばさんの言葉を思い出して自分で踏みとどまらなきゃいけないところだけど、トビーの救済を優先したのであぁなっちゃったのかなと。(あれはあれでめちゃくちゃアガったし泣いた)
序盤のヴィラン集めのところも、集めなくてもヴェノムが強制送還されたなら別に集めふ必要なかったし。(まぁ街は多少破壊されるけども)*10
500億点出す代わりに、『ホーム』シリーズとしての5億点は捨てざるを得なかったって感じる。
MCUが全力でやってもまだ粗が残る。レジェンド出演の難しさよ…
とはいえ、期待値を高めに高めた世界中の面倒くさいオタクの想像を遥かに超えたとんでもない映画を作ったなと思う。2022年のベスト映画を年始に観てしまったなという気持ち。
もう一回全部観て、また観たいな。
その前にデアデビル観なきゃ。
*1:全3作
*2:全2作。アメスパ2大好き
*3:映画観た後の客にロビーとかトイレでネタバレされるの死ぬほど嫌い
*4:アメスパ2大好き人間、たまらんくて号泣
*5:神聖時間軸には影響無さそうなのでロキ頑張れ超頑張れ
*7:なぜネッドが開けたのか…指輪あればわりと誰でもいけるの?
*8:そういやストレンジ両腕ボロボロだったので、実は才能と指輪があればわりと簡単な部類の魔術なのかもしれない
*9:「ネタバレ」に「サプライズ」という意味を持たせ過ぎている問題。黙らないことがそれすなわちネタバレになっちゃってると思う。急いで観に行ってよかった。
*10:今回ストレンジは一貫してトムホを少年として扱ってたので、「悪さをした子どもたちにちょっと罰でも与えるか」ぐらいの感覚だったのかもしれない