インド映画がヤバいらしい。
ヤバいヤバいとは聞いていたけど、そのヤバさに触れずに今日まで生きてしまった。
そんな折に公開された『RRR』。
監督のS・S・ラージャマウリ、ビーム役のN・T・ラーマ・ラオ・Jr.、ラーマ役のラーム・チャランのイニシャルが3人ともRだったことに起因するタイトルらしいです。
うん。なんにもわかんねぇな。
どうせ観るなら予告も観ずに劇場へ行こうかとも思ったんですが、ふとYouTubeで再生してしまったのがこちら。
旨味が濃すぎる。なんだこのハイカロリーなダンスシーンは。
このシーンを劇場で観たい。そう思って映画館に行ったら本編のナートゥはこんなもんじゃなかった。
できれば予告も観ずに今すぐ映画館に行ってほしい。めちゃくちゃ面白いので。
あ、館内ではできれば水分は控えめに。
舞台は1992年、イギリス植民地時代真っ只中のインド。最も反英感情が高まっていた時期でもあり、終始インド人を虐めるイギリス人と、虐げられ怒り狂うインド人が描かれている。
とはいえそういった時代背景について全く知識が無くてもなんとかなるのがこの『RRR』。
とりあえず二人の雄の存在だけ認識しておけばいい安心設計。
ゴーンド族の男ビーム
森を司る虎。ゴールデンカムイから抜け出してきた男。
冒頭、マッスルポーズで生き血を被るシーンでこの男の全てが語られていた。
野生がそのまま筋肉を纏ったような荒々しさと、純粋なる瞳に大義の炎を宿す情の男。目が綺麗すぎる。
イギリス人に拐われた少女を救うためにやってきたビームは、のちに兄貴と慕う盟友ラーマと出会うんだけど、この出会いのシーンが圧巻で。
「もっとなんか…他にあっただろ!」って言いたくなるような非効率的な手段を圧倒的な絵面のパワーで
「うーん…これしかない!!!」に塗り替えてしまう勢いがギチギチに詰まってて、『RRR』の筋肉方程式を示す例題みたいになってる。
この二人、この時初めて会ったどころかまだ一言も会話をしていない状態でこのトンチキレスキューやってるからね。
2.3秒のハンドサインで全ての作戦を理解して実行するビーム。その作戦を立案、成功させるだけの胆力のある男を群衆のなかから見つけ出したラーマ。
レスキューの前に列車事故で爆発が起こる前兆で橋が振動してたんだけど、運命の男たちが出会った共鳴で揺れてると思って観てたからね。
そんな、出会うべくして出会ってしまった運命の男たち。
最初の共同作業を経て既に友情ゲージはカンストしてたんだけど、ここからさらに絆を深めていきます。
イギリス政府の警察官ラーマ
インド人警察として英国政府に仕える甘いマスクのマッスルポリス。こっちもこっちでゴールデンカムイみたいな男。ビームがアイヌならこっちは第七師団。
命令には絶対服従で、「1万人のインド人暴徒の中に飛び込んで一人捕まえてこい」なんて無茶ぶりに棍棒一本持って躊躇なく行動しちゃうし、ボコボコになりながらも遂行しちゃう。
最初血も涙もない冷血漢なのかと思っていたけど、ビームと出会って意気投合してからはよく笑うし悪知恵も働くしヤギも盗むしで普通に気のいいあんちゃんだった。
イギリス領インド帝国総督婦人に拐われた少女を救いにきたビームと、その男を捕えるよう命令されたラーマが、お互いの素性を知らぬまま親友になっていく。少女漫画か?
総督の屋敷に忍び込むのに利用できるかもしれないと思って近付いた心優しきイギリス人女性、ジェニーに惚れちゃったビーム。
ラーマに「兄貴、どうやって彼女と仲良くなったらいいかな?」って聞いちゃうのも可愛いし、それを椅子に座ってワクワクしながら聞きつつも、「俺に任せておけ」って言っちゃうラーマの兄貴っぷりも可愛い。
そして一番の見せ場はやっぱり上記のダンスシーン。
ジェニーに総督の屋敷に招待されたビームとラーマ。
イギリス貴族の坊っちゃんに
「インド人がダンスなんて踊れるのかよ(笑)」みたいなこと言われてたけど、たぶん観てる人全員が「いや踊れるやろ…」ってた。
「インド映画といえばダンスシーン!だから入れました!」じゃなくて、物語上必要な流れでダンスシーンに入るのがよかった。
イギリス坊っちゃんが、最初はバカにしてたけどナートゥに入ってくるところでめちゃくちゃ泣いた。あえて相手の土俵に入ってくるのかっこいい。
ナートゥ、最初のキレッキレの足捌きで圧倒しておきながら最後はスタミナ勝負なのか良い。他の貴族がどんどん脱落していくなか、イギリス坊っちゃんが最後まで食らいついていたのも良い。さっさと負けて情けなく去っていくもんだとばかり思っててごめん。
社交界のダンスの評価基準って美しさとかだと思うんだけど、初めて見るナートゥに「最後まで立ってた方が勝ち」っていう体力勝負の評価基準を持ち込まれて、面食らったと同時にめちゃくちゃ楽しかったんだろうなっていうのが凄く伝わってきた。
土煙を上げながらぶっ倒れるまで踊った貴婦人方が疲れてドレスのまま芝生に転がって大笑いしてるところで泣いてしまった。
というかナートゥはずっと泣いてた。最高の5分間だった。
フルナートゥ貼っておきます。
細かい事言うと最初トレーが転がってくるところからがナートゥなのでこれは正確にはフルナートゥではないという認識です。サムネの左側がビーム、右がラーマね。
最後のビームとラーマの一騎打ち、ラーマがビームにこっそり勝ちを譲るのが後半になって効いてくるんだろうなぁと思ったら結構すぐに効いてきた。伏線を引き摺らない。良いカードはすぐ切る。
音楽やダンスを通じて言葉や国境の壁を越えるシーンが大好きなんだけど、今回はもっと根深い人種の壁があるので生半可な演出じゃ説得力がでないと思ってたんだけど、ちょっと音楽が良すぎた。
相容れない相手と音楽を通してスイングしていくのはミュージカルのド定番演出だけど、楽曲のパワーで説得力を出してきたの本当に凄いと思う。
ナートゥ、たぶんラスボスの提督と婦人にも効いたと思うので一回一緒に踊ってみればよかった。
ここから物語は急加速。とはいえここまでもマッハだったんだけど。
総督の屋敷にドリフト侵入して獣達と一緒に檻から飛び出すビーム。普通に助手席とかでも良かったんじゃないかとか言ってはならない。彼も森を司る虎なんだから。
ビームの正体を知ったラーマが炎の馬車に白馬4頭縛り付けて警察官の姿で登場。言ってて意味わかんないけど、たしかにそうだったんだから仕方がない。
お互いの正体を知ってしまった数奇な運命の男二人。
ビームが少女を救うために戦ってると知ってからは、ラーマがビームの目を見て話せなくなってるのも細かいけど好き。ラーマの葛藤がよく表れている。
ギリギリでとどめを刺せないラーマと、自分の信じる正義のために親友を倒すことに躊躇いがないビーム。ナートゥフラグの即効性たるや。
結局ビームは捕まっちゃうんだけど、そこでようやく目を合わせた二人、最高に盛り上がったところでINTERRRVAL。
本当にトイレ休憩ぐらいあってもいいかと思ったけど、このままの熱量でラーマの過去編を観たい気持ちが強かったので無くてよかったと個人的には思う。本国はどういう雰囲気なんだろうか。
この映画、あらゆるシーンで「これは男の友情の物語〜」「お互いの素性を知った時二人はどういう決断を下すのか〜」みたいな歌がずっと流れてて分かりやすすぎる。物語のレール整備に余念がない。
「物語がどちらに転がるかドキドキしている暇があるなら、筋肉とアクションと爆発にドキドキしていてくれ」って創造神ラージャマウリが言ってる。
とはいえ示された物語はここまで。この先は一緒に潮流に揉まれようぜってこと。
ここでラーマの過去編。インド解放の大義のために警察に潜入していたことが明かされる。
武器の管理を任されるまで出世して、仲間たちに武器を流すつもりだったと。
弟分のビームを鞭打ちすることになっても目を逸し続けるラーマ。いきなりローズウィップを持ち出す総督婦人。あんた本当にクソだ。
涙を隠すように返り血を拭うラーマ。好(ハオ)。
痛めつけられながらも民衆を鼓舞し、銃を使わなくても戦える道を示したビーム。
その姿に感銘を受け、ビームを救うことを決意するラーマ。それはそれとして最後銃は持って帰るが。
この鞭打ちから最終決戦になだれ込むのかと思ってたらまだまだこれからだった。メインディッシュが延々運ばれてくるので終わりが見えねぇ。なんだこの映画。
ビームを逃した罪で投獄されているラーマ。
逃げた先でラーマの許嫁、シータに出会い全てを知るビーム。
男たちの運命の流転が整いつつあるな。
この映画、「そうはならんやろ」「なっとるやろがい」の釣瓶打ちなんだけど、「なっている」理由をしっかり設けてるのがニクい。ニクいし面白い。
「なってるから」の力業で通してるようで、「ちゃんと理由はありますが!なぜならば!」の力業で通してくる。
どのみち強引ではあるんだけど、少しでも分かりやすく、矛盾を感じることなく3時間過ごさせようという気概に溢れている。
なので兄貴が足を怪我して歩けない時は肩車をして合体して戦います。本来であれば戦力低下は免れませんが、屈強な男の2乗なので当然強くなります。はい。
「始まったな」と思いました。
その後森で神の弓矢を手に入れ戦神にジョブチェンジしたラーマ。序盤の村に最強装備があるのRPGみたいで最高にアガる。
よく考えたらビームが薬草で全部なんとかするのもめちゃRPGだな。
馬とバイク。ハンドサイン。炎と水に擬えた演出。
最初の方に出てきて美味かった料理が続々とデザートに突き刺さっていく。さてはラージャマウリ、あんた引き算を知らないな?
仕上げはロウソク(武器庫)に点火してフィニッシュ。火薬多すぎて爆風で屋根浮くのなんてカートゥーン以外で観たことないのよ。
かつてインド人の命より重いと愚弄された銃弾を総督にお返ししてハッピーエンド。婦人は血しぶきそのものになれて幸せそうな死に様でしたね。
エンドロール。そんなものは隅でいい。踊りを観ろ。
ラージャマウリ「俺も踊るから」
知らんおっさんが役者に交ざって踊ってるので誰かと思ったら監督だった。
こんな映画撮られたら踊られても許すしかないわね。お手上げよ。
MCUなんかだとエンドロールが長すぎて2曲使ったりするので、ダンスシーン終わってから別のエンドロール流れたりすると思ってたらダンスが終わるとともに客電点いてめちゃくちゃ笑っちゃった。ほんとに最後の一秒まで楽しいしか詰まってなかったなこの映画。サイコー。
総評
イギリス植民地時代のインドとかいうシリアスな題材を使いながら、出来上がった作品がここまでカラッとしてるの、監督の手腕なんだろうな。
インド映画って括りではなく、エンタメ作品として一級品だと思いました。
188分という上映時間が全く長く感じなかったのは凄い。エンドゲームですら長く感じたのに。
全シーン全カット見所しかなくて、スロー演出とキメがない場所の方が少ないぐらい。
明らかに演出過多なのに胃もたれしない。
だいたい良い映画観た後って続編のこと考えたりするんだけど、『RRR』については全く考えなかった。
よっぽど満足したんだろうな。
インド映画、素晴らしい。
年内にバーフバリ観ます。